浦和地方裁判所 平成8年(行ウ)20号 判決 2000年8月07日
原告
椎橋樹重朗
同
野口澄子
同
溝江智宏
右原告ら訴訟代理人弁護士
桜井和人
同
中山福二
同
堀哲郎
被告
埼玉県教育委員会
右代表者委員長
茨木俊夫
被告
埼玉県
右代表者知事
土屋義彦
右被告ら訴訟代理人弁護士
鍛冶勉
右被告ら訴訟復代理人弁護士
加村啓二
被告
埼玉県人事委員会
右代表者委員長
坂巻幸次
右被告訴訟代理人弁護士
関口幸男
右指定代理人
梅沢義典
同
川崎啓
同
若山保
同
髙田裕之
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
理由
第一 本件処分及び本件裁決に関する事実
一 当事者間に争いのない事実のほか、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
1 当事者
(一) 平成元年度当時、原告椎橋樹重朗(以下「原告椎橋」という。)は、福岡高校一年二組(以下、高校名を省略し、学級のみを表記する。)の、原告野口は、一年八組の、原告溝江智宏(以下「原告溝江」という。)は、一年四組の各学級担任としていずれも福岡高校に勤務していた被告県の教職員であった。
(二) 被告教育委員会は、県の学校その他の教育機関の教職員の任免その他の人事に関する事務を管理し、執行する権限を有する機関である(地方自治法一八〇条の八、地方教育行政の組織及び運営に関する法律二三条三号)。
(三) 被告人事委員会は、県の職員に対する不利益な処分についての不服申立てに対する裁決又は決定等を行う機関である(地方自治法二〇二条の二第一項、地方公務員法八条一項一〇号)。
2 学習指導要領の改正
文部省は、昭和三三年、小中学校の学習指導要領において、国民の祝日などにおいて儀式などを行う場合には、「国旗」を掲揚し「君が代」を斉唱させることが望ましい旨を定められ、昭和三五年に高等学校学習指導要領も同様の定めがされ、昭和六〇年には、高等学校学習指導要領を、「君が代」を「国歌」と改め、さらに平成元年一一月三〇日、入学式や卒業式などにおいては、国旗を掲揚するとともに、国歌斉唱するよう指導するものとすると改めた。なお、平成元年一一月三〇日に改正された右高等学校学習指導要領の施行は、平成二年四月一日からであり、原告らの本件予行練習等の中止、本件放課指示及び本件印刷物配布(本件行為)は、右施行前に行われたものである。
3 本件処分に至る経緯
(一) 江野校長は、昭和六三年四月一日、福岡高校の学校長に補された。
江野校長は、福岡高校における学校行事等の際、「日の丸」を掲揚したいとの意向を持っており、右同日の職員会議の席上で「入学式には国旗を掲揚したいので全職員の良識ある理解を要請する。」旨の発言を行ったところ、教職員から批判を浴び、これを結局撤回した。
江野校長は、昭和天皇の死去に際し、「日の丸」の半旗を掲揚したところ、平成元年一月九日、臨時の職員会議において、右「日の丸」の掲揚が問題となり、その結果、江野校長は、入学式、卒業式については切り離して考えること、今後については教職員と話し合って行うこと及び今回は同月一二日まで勤務時間内に「日の丸」を掲揚することにつき確認し、教職員は、右のとおりの「日の丸」の掲揚に同意した。
昭和六三年度の卒業式を控えた平成元年二月一四日に職員会議が開かれたが、当日、江野校長は、プリントを教職員らに配布した上、「日の丸を掲揚したい。」と述べたが、多数の教職員から反対され、後日、「日の丸」を掲揚しないことを表明した。
平成元年度入学式についても、「日の丸」の掲揚はなされなかった。
(二) 平成二年二月八日の職員会議においては、当時の組合分会長であった赤水教諭が、江野校長に対し、「今回の卒業式では日の丸を掲揚するつもりなのかどうか明確にして欲しい。」旨を質問したが、江野校長は、本件卒業式に「日の丸」を掲揚することについては教職員の反対が多いが、「日の丸」は国旗として国民の間に定着し、国際的に認められ、かつ、現行の高等学校学習指導要領の趣旨からみて「日の丸」の掲揚はしなくてもよいとは考えられず、右学習指導要領、被告教育委員会の方針、県議会の決議、外国語コースの設置にともなう国際理解教育の推進等から、本件卒業式の「日の丸」の掲揚については校長の責務と責任において決断しなければならないと考え、国歌については見送るが、「日の丸」については、掲げたいとは思っているが、なお慎重に考えるので結論については待って欲しい旨答えた。
同月一五日職員会議において、教務主任の長井弘教諭(以下「長井教諭」という。)から教務部提案として、「第一五回卒業証書授式(案)」(〔証拠略〕)が提出、承認され、その際、江野校長は、「日の丸」の掲揚について、教職員から「いつ回答するのか。」という質問に対し、右のように江野校長は考えていたことから、右考えを述べ、「学検(入学試験)が終了してから。」と答えた。
同月二二日の職員会議においても、赤水教諭から、「日の丸」掲揚問題についての江野校長に対する質問及び反対意見の表明があった。
同月八日の職員会議での江野校長の発言を受け、教職員間で申し合わせて、同月九日から同月二四日までの朝会において、教職員らは、本件卒業式での「日の丸」の掲揚に反対する旨の意見を述べた。
同年三月二日、教職員らが応接室に集まり、江野校長に対し、教職員の大方の意向を無視して「日の丸」の掲揚を押し付けることは避けて欲しいとの要求を改めて出した。これに対し、江野校長は、前記のとおり、本件卒業式に「日の丸」を掲揚することについては教職員の反対が多いが、「日の丸」は国旗として国民の間に定着し、国際的に認められ、かつ、現行の高等学校学習指導要領の趣旨からみて「日の丸」の掲揚はしなくてもよいとは考えられず、右学習指導要領、被告教育委員会の方針、県議会の決議、外国語コースの設置にともなう国際理解教育の推進等から、本件卒業式の「日の丸」の掲揚については校長の責務と責任において決断しなければならないし、また、学力検査に専念することが必要であるとの考えから、「学検が終わるまで回答を待って欲しい。」と述べた。そこで、教職員らは、江野校長に対し、学検の選考会議に開かれる同月六日までには回答するよう求め、江野校長は、本件卒業式の前日の同月八日に最終決断をすると述べた。
江野校長も出席した同月五日朝会において、長井教諭は、同月八日の第一及び第二時限は、一年生及び二年生に対しては通常授業を行い、三年生に対しては、本件卒業式の練習を実施し、右同日の第三及び第四時限は、全校生徒による本件卒業式の予行練習を実施する旨を記載した「第一五回卒業証書授与式関係細部」と題する書面(〔証拠略〕。以下「本件卒業式日程表」という。)を配布し、右書面の内容について問題があれば申し出るよう伝えたが、特に意見なく、右内容は了承された。
同月六日の夕刻、教職員らは、江野校長に対して、「日の丸」の掲揚に対する見解を求めたが、江野校長は、前記のとおり、本件卒業式に「日の丸」を掲揚することについては教職員の反対が多いが、「日の丸」は国旗として国民の間に定着し、国際的に認められ、かつ、現行の高等学校学習指導要領の趣旨からみて「日の丸」の掲揚はしなくてもよいとは考えられず、右学習指導要領、被告教育委員会の方針、県議会の決議、外国語コースの設置にともなう国際理解教育の推進等から、本件卒業式における「日の丸」の掲揚については、校長の責務と責任において決断しなければならないとの考えから、以前から多くの教職員が反対していることは十分承知している、教職員の意向を考慮しながら、三月八日の朝会において最終的な判断をする旨述べた。
同月七日の朝会において、赤水教諭が、教職員の意向を受けて、江野校長に対し、今すぐに掲揚しない旨を明言して欲しいと述べたが、江野校長は、「明日の朝会において最終的な判断をする。」と答えた。
福岡高校の教職員の一部の者は、平成二年二月八日の職員会議以来、江野校長に対し、職員室の壁、江野校長の椅子、校長室入口のドア、下足箱等に、「日の丸」の掲揚に反対する意見や本件卒業式に「日の丸」を掲揚するかどうかの回答を早期に求める旨を記載した書面等を貼付したりした(〔証拠略〕)。
(三) 平成二年三月八日の状況は、次のとおりである(以下、本項においては、時刻のみを挙示し、日付等の挙示は、省略する。)。
(1) 午前八時三〇分から始まった朝会において、本日の日程として、第一時限及び第二時限は三年生による本件卒業式の予行練習を行い、第三時限及び第四時限は本件卒業式日程表に従って全学年による合同の本件卒業式の予行練習を行い、午後は本件卒業式の準備を行うことを確認した後、江野校長は、原告らを含む教職員らに対し、本件卒業式には「日の丸」を掲揚塔に掲揚すること、それに対し妨害行為をしないようにしてほしい旨を申し渡した。
江野校長の右発言の直後から職員室は騒然となり、「日の丸」の掲揚に反対する教職員らが、江野校長の席の周りに立ち並び、「日の丸」の掲揚を撤回するように要求した。右朝会の司会を担当していた長井教諭が、江野校長の周りに立ち並んでいる教職員らに対し、自分の席に戻るよう指示したが、右教職員ちは、自分の席に戻ることはなかった。
しかし、午前八時三五分のチャイムが鳴ったことから、担任学級を受け持つ教職員らは、午前八時四〇分から始まるショートホームルームを行うため、各学級の教室に出かけ、その他の教職員らは、それぞれの席に戻り、その場は一応落ち着いた。
(2) 第一及び第二時限は、本件卒業武日程表のとおり、三年生による本件卒業式の予行練習等が行われた。
(3) 三年生の担任教職員らは、第二時限終了後、福岡高校の体育館の管理室で、江野校長の「日の丸」を掲揚するとしたことについて話し合った。その際、国井教諭は、他の三学年担任の教職員七名及び三年五組副担任の赤水教諭に対し、第一時限及び第二時限に行われた三年生による本件卒業式の予行練習はうまくできたし、「日の丸」の掲揚を撤回させるための対策会議を開くために、本件予行練習等を中止し、第三時限目以降を放課にすることを提案したところ、三学年担任の教職員らもこれを了承したので、本件印刷物を作成して生徒らに配布し、第三時限目以降を放課にして、本件予行練習等を中止することとした。
(4) 右教職員らは、右計画を一、二学年担任の教職員らに伝えるため、職員室に移動し、国井教諭が、三年生担任の教職員を代表して、一、二学年の教職員らに、「予行をやらないで生徒を帰そう。」と発言し、一学年主任の佐野教諭及び二学年主任の杉山教諭に対し、江野校長と、本件卒業式における「日の丸」の掲揚に関する発言の撤回を求めるよう話し合うため、第三時限以降を放課として生徒を帰宅させ、本件予行練習等を中止すること提案し、佐野、杉山両教諭は、いずれも同意し、それぞれ一年生の担任教職員(原告椎橋、原告野口、原告溝江を含む。)及び二年生担任教職員らにその旨伝え、各学年会において、右提案が全員一致で了承された。
また、三年生担任教職員八名と三年五組副担任の赤水教諭は、本件印刷物を作成した上、これを印刷室にて印刷し、各クラス担任の教職員らにそれぞれ担任生徒の人数分を配布した。
(5) 午前一〇時四七分ころ、職員室では、各学年の打ち合わせが行われており、その場にいた福岡高校の教頭中村公夫(以下「中村教頭」という。)は、各学年の教職員らが、本件予行練習等について打ち合わせをしているものと考えていた。しかし、右打ち合わせが終了した午前一〇時五〇分ころ、担任クラスを持つ教職員らは、一斉に本件印刷物を携えて、各担任クラスの教室に向かい、その際、一人の三年生担任教職員が、中村教頭に対し、本件印刷物を配布することを明らかにしたため、中村教頭は、右教職員に対し、本件印刷物の配布を制止したが、右教職員は、本件印刷物を中村教頭に見せることなく教室に向かった。また、国井教諭は、中村教頭に対し、本件予行練習等を行わない旨を各学級担任の教職員に伝えたと述べ、教室に向かった。
(6) 中村教頭は、江野校長に対し、午前一〇時五〇分ころ、右の事情を電話で連絡しようとしたが、江野校長は電話中のため連絡がつかず、午前一〇時五二分ころ、直接校長室に行ったが、江野校長はいまだ電話中であった。そこで、中村教頭は、事態把握のため、各学級の様子に注意を払っていたが、特に変わった様子はなかった。中村教頭は、午前一〇時五五分ころ、印刷室にいた教職員らに対し、本件印刷物のことや本件予行練習等の中止について問い質したが、右教職員らは、何も知らないと答えた。
しかし、原告らを含む各クラスの担任教職員らは、いずれもそれぞれの教室で、担任クラスの生徒らに対し、本件印刷物を配布した上、本件予行練習等を中止する旨を説明し、生徒らに対して放課の指示をしていた(本件行為)。
中村教頭は、生徒らが、本日の予定と異なって清掃を始めたのを見て、異常を感じ、午前一〇時五八分ころ、江野校長に対し、直ちに職員室に来るよう連絡したが、すでに、本件印刷物は配布されており、生徒らのうち、本件卒業式の準備を担当していた者以外は、帰宅を始めており、結局、本件予行練習等は実施されなかった。
(7) 右事実の報告を受けた江野校長は、被告教育委員会教育局指導第二課富田主席指導主事に、電話で事故発生の概要を報告し、本件卒業式を挙行するための事態収拾策について、指導を仰いだ。その後、江野校長と中村教頭は、対応策について相談し、午前一一時〇五分ころ、中村教頭と江野校長は、職員室に入り、江野校長は、その場に居合わせた教職員らに対し、本日の日程は、朝会で確認したとおり本件卒業式日程表に従って行うように口頭で申し渡した後、退室した。江野校長と中村教頭は、午前一一時一〇分ころ、職員室に戻り、中村教頭が、全教職員に対し、直ちに職員室に集合するよう指示する旨の校内放送を行い、江野校長は、午前一一時二〇分ころ、大方の教職員が集まった段階で、教職員らに対し、連絡黒板に「校長指示 本日(平成二年三月八日)の日程は、本日午前八時三〇分から八時四〇分の間に朝会で確認された第一五回卒業証書授与式関係細部(本件卒業式日程表)に従って行うよう指示します。」と記載された書面を掲示しながら、「朝会で承認されたとおり、第三及び第四時限目の予行練習を実施して下さい。」と申し渡した。
しかし、教職員らは、右書面を掲示した江野校長を取り囲み、右書面に記載されていることが職務命令なのかどうか問い質した上、江野校長の「日の丸」の掲揚の決定等に対して抗議を始め、その場は騒然とした状態となった。江野校長は、教職員らの興奮を静めるよう説得したが、緊張した状態が続いたため、中村教頭が興奮する教職員らを引き離し、江野校長が職員室を退出することによって、その場は鎮まり、中村教頭も職員室を退出した。
(8) 午後零時四〇分、福岡高校の一人の生徒の父親から、江野校長に対し、本件印刷物に対する抗議の電話がかかり、さらに、右保護者は、本件印刷物を作成した教職員の代表に対し電話で抗議する旨述べたので、電話は、事務室を通して赤水教諭に転送され、その後、国井教諭が、右保護者と電話で話し合った。
(9) 中村教頭は、午後零時から午後一時までの間、各教室を巡回して配布された本件印刷物を捜したところ、ある教室において、本件印刷物一枚を発見し、また、印刷室において、切断された本件印刷物を発見した。
江野校長は、中村教頭が見つけた右本件印刷物を保管した。
(10) 三年生担任の教職員らは、午後一時ころから、会議室において、朝会における江野校長の発言に対する対策会議を開いた。
(11) 職員会議は、午後二時九分から開かれ、当日予定の議題の討議の終わった後、教職員らは、江野校長に対し、本件卒業式に「日の丸」を掲揚することに対する反対意見を表明し、さらに、「日の丸」の掲揚に関する江野校長の学校運営、特に多数の教職員の意向を無視したこと、「日の丸」の掲揚するかどうかの回答を本件卒業式の前日である本日まで引き延ばしたこと等に対する質疑や非難がされ、本件卒業式に「日の丸」を掲揚するのであれば、本件卒業式に参加しない等の意見が出た。江野校長は、教職員らの右質疑に対し応答するとともに、本件卒業式に「日の丸」を掲揚することについて教職員らの理解を求めるよう努めたが、職員会議の収拾のめどがつかなくなったため、中村教頭から、「少し時間をもらいたい。」との発言があったのを機に、午後三時二〇分、職員会議を一旦中断した。
(12) 右職員会議中の午後三時ころ、江野校長から連絡を受けた教育局から、長井指導部高等学校教育課主席管理主事(以下「長井管理主事」という。)及び小川指導部指導第二課主任指導主事が、福岡高校を訪れ、右職員会議が中断した間、江野校長に対し、「明日の卒業式を滞りなく行うことを考えていただきたい、国旗を掲揚するかしないかは校長先生のご判断でお願いします。」と伝え、本件卒業式を滞りなく行うことを考えて、江野校長の責任でこの問題を対処して欲しい旨延べた。江野校長は、中村教頭、事務長と事態収拾策について相談し、本件卒業式を混乱なく行うため、本件卒業式では、「日の丸」を掲揚しないこととした。
(13) 職員会議は、午後四時二五分に再開された。江野校長は、教職員らに対し、「生徒のために明日の卒業式は滞りなく行いたい。そのために残念ながら国旗を掲揚しない。」旨申し渡し、午後四時二七分、職員会議は終了した。
4 本件卒業式
平成二年三月九日、本件卒業式は、「日の丸」の掲揚がされないまま、行われ、江野校長は、同月一〇日の朝会において、教職員らに対し、本件卒業式について謝辞を述べた。
5 本件処分における事実調査
(一) 江野校長は、平成二年三月一四日の朝会で、同年三月八日、原告らを含む教職員らが、本件予行練習等を中止し、生徒に放課を指示し、本件印刷物を生徒らに配布したこと(本件行為)を重大な事態と判断し、これを被告教育委員会の教育局に電話連絡をし、右教育局に対して、右教職員らの行為について文書で報告することにしたので、関係する教職員らから事情を聞く旨申し伝えた。これに対し、二名の教職員から協力はできない旨の発言があった。
江野校長は、右報告をするに当たり、右同日から同月一七日までの四日間に関係職員に対し事情聴取を行ったが、二〇名の教職員が右事情聴取を拒否した。
江野校長は、同月一六日、教職員らに対し、「卒業式予行練習中止及び国旗掲揚反対の印刷物配布の件」と題する書面(〔証拠略〕)を示して、内容に間違いがあれば申し出るよう述べたところ、教職員らから、「報告書に対する訂正要請」と題する書面(〔証拠略〕)が提出された。そこで、江野校長は、教職員ら提出にかかる右文書を踏まえて、さらに、三年生担任教職員と三年生副担任教職員赤水教諭が、本件行為を計画して他学年の教職員らに要請し、三年生担任教職員、二学年担任教職員及び一学年担任教職員(原告椎橋、原告野口、原告溝江を含む)が本件行為を行った旨を記載したが「報告書作成のための事実関係調査の結果について」と題する文書(〔証拠略〕)を作成し、同月一九日、教職員らに対し、事実に誤りがあれば申し出るように伝えたが、これに対し、教職員らからは訂正の申出はなかった。
江野校長は、同月一九日、埼玉県教育委員会教育長宛に右文書の内容に事故の概要を書き加えて、事故報告書(親福高第七四号、以下「本件報告書」という。)〔証拠略〕)を作成し、右同日、被告教育委員会の教育局に持参して提出し、長井管理主事宛てに、別添資料1として「事故報告のための事実調査の方法について」と題する書面と、別添資料2として、「報告書作成のための事実関係調査の結果について」と題する文書(〔証拠略〕)を添付した「事故報告書作成のための事情調査の方法について(報告)」と題する書面(親福高第七五号、〔証拠略〕)を作成し、右同日、提出した。右各書面には、江野校長が、原告らを含む教職員らに対して行った事情聴取及びこれに対する各教職員らの対応の様子、生徒らに対する本件印刷物の配布、放課指示及び本件予行練習等の中止を計画した者並びにこれらを生徒らに対して実施した者について、それぞれ記載されていた。
(二) 教育局の職員ら(長井管理主事を含む)は、平成二年三月二九日、同年四月五日及び同月一二日、福岡高校において、原告らに対して事実確認を行ったところ、原告らは、同年三月二九日、右教育局職員に対し、個別では事情聴取に応じられない、同月八日以前の事実経過についても聞いて欲しい旨申し出たが、教育局職員は、原告らに対し、正確に事実を把握するためには、個別に事実確認をしたい旨返答して原告らを説得し、同月二九日午後三時四〇分から同日午後七時までにかけて、原告らを含む二五名に対し、福岡高校会議室又は理科第一講義室において、江野校長又は中村教頭の立会いのもと、一人一人個別に氏名、担任クラス、本件印刷物の配布の有無、生徒に対する放課指示の有無、本件印刷物の配布及び放課指示の行われた場所、時間、これについての事前の打ち合わせの有無等について事実調査を行った。原告らは、右事実確認において、同月八日、本件印刷物を配布したこと、生徒に対して放課を指示し、本件予行練習等を行わなかったことをそれぞれ認めた。
また、同月二九日出張中であった教職員の一人は、同年四月五日午後四時三三分から四時五〇分までの間、福岡高校保健室において、同校の三角教頭の立会いのもと教育局の職員からの事実聴取を受け、本件印刷物を配布したこと、生徒らに放課指示し、本件予行練習等を行わなかったことを認めた。
さらに、赤水教諭は、同月一二日午前一一時五二分から同日午後零時一三分までの間、福岡高校応接室において、教育局の職員から、江野校長の立会いのもと、再度事情聴取を受け、副担任クラスである三年五組において、同クラス担任教職員とともに、生徒らに対し、本件印刷物を配布したことを認めた。
江野校長は、赤水教諭が、副担任クラスである三年五組の教室において、同クラス担任教職員とともに、生徒らに対し、本件印刷物を配布したことについて記載した同月二〇日付けの埼玉県教育委員会教育長宛の「事故報告書(第二報)」と題する書面(親福高第七号、〔証拠略〕)を作成し、被告教育委員会は、同月二七日、右書面を受理した。
6 本件行為に関する新聞報道
原告らが、本件卒業式に「日の丸」の掲揚に反対して、生徒らに対し、本件印刷物を配布した上、本件予行練習等を中止し、生徒らを放課にしたことについては、地元の日刊新聞等により、「「日の丸」卒業式の予行ボイコット 全学級で生徒を解放」、「卒業式の「日の丸」に反発 教師ら練習中止」、「各高校、関係者に戸惑い、教師側と校長対立したまま」、「「日の丸」に揺れる教育 県立福岡高の卒業式予行ボイコット」、「「日の丸」掲揚に教師反発 卒業式の予行中止」、「卒業式の予行演習中止 教師らが日の丸に反対」、「「日の丸強行」校長発言に教師反発 卒業式の予行練習流れる」等の見出しにより報道された(〔証拠略〕)。
7 本件処分
平成二年五月二三日、第一一九回埼玉県教育委員会定例会の秘密会において、原告らの処分について協議された後、追加議案(第三七号議案)として審議された上、出席委員の全員一致で、原告らに対し、戒告の懲戒処分をすることが議決された。なお、原告らが本件処分を受けたことについては、日刊新聞等で報道された。
8 本件裁決
渡邉次長は、平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで、県立高校における教育に対する指導及び助言に関する事項等を所掌する教育局指導部次長の職にあり、教育局指導部部長を助け、職員の担任する事務を監督し、部の事務を整理していた者(埼玉県教育局組織規則九条ないし一三条及び二五条一項)であるが、平成元年六月一日から平成二年三月三一日までは、埼玉県立スポーツ研修センターの所長を兼務し、週のうち二日は、埼玉県上尾市にある右センターに勤務していた。なお、渡邉次長が教育局指導部次長に在職していた当時、教育局指導部指導二課では、高等学校の教育内容の指導の一環として、「日の丸」掲揚、「君が代」斉唱について、教職員らの理解を求め、各学校の状況に応じて、学校長の職務と責任において、これを実施することが望ましいとの指導を行っていた。
渡邉次長は、教育局の職員を介して、江野校長から、原告らが、本件卒業式における「日の丸」の掲揚に反対して、生徒らに対し、本件印刷物を配布した上、生徒らに放課を指示し、本件予行練習等を中止したことについて報告を受けた後、まず、事実を確認するため、教育局の職員に対し、原告らから直接、事実を確認するよう指示し、これを受けて、教育局の職員らは、前記のとおり、平成二年三月二九日、同年四月五日及び同月一二日、福岡高校において、原告らから個別に事実の確認を行った。しかし、渡邉次長は、同月一日、埼玉県立浦和第一女子高等学校の学校長に補され、その後、被告教育委員会は、同年五月二三日に、原告らに対し、本件処分を行ったが、渡邉次長は、原告らに対する本件処分等について関与していない。
渡邉次長は、右高等学校長等を経た後、平成七年一〇月一六日、被告人事委員会の人事委員(非常勤)に選任された。渡邉次長は、原告らの本件審査請求については、平成七年一〇月三一日の第三三回口頭審理及び同年一二月二五日の第三四回口頭審理(審理終了)において、右審査請求に加わり、被告人事委員会は、平成八年四月二三日、本件処分をいずれも承認する旨の本件裁決をした。
第二 本件処分の違法性について
一1 原告らは、原告らの行った本件行為は、そもそも地方公務員法の規定に違反するような重大なものではなく、右本件行為に対する本件処分は違法であると主張する。
前記認定した事実によると、福岡高校では、平成二年三月五日及び同月八日の職員会議において、右同日の日程として、第三及び第四時限に全学年で本件卒業式の予行練習を行うことが記載された本件卒業式日程表が教職員らに配布され、右実施についての承認がされ、さらに、右同日の朝会において、本件卒業式日程表に記載されたとおり本件予行演習を行うことが確認されたこと、原告らは、江野校長が、本件卒業式に「日の丸」の掲揚を決したことから、右同日の第二時限の後、国井教諭ら三学年担任の教職員らの提案により、本件印刷物を配布すること及び生徒を放課して本件予行練習等を中止することとし、第三時限の開始時、中村教頭の制止にもかかわらず、それぞれが担任をするクラスにおいて、生徒らに対し、本件印刷物を配布した上、放課を指示したこと、右事態に気づいた江野校長は、直ちに、職員室において、その場に居合わせた教職員らに対し、本件卒業式日程表に従って行動するよう口頭で指示し、中村教頭の放送による指示によって職員室に集まった教職員らに対し、再度、本件卒業式日程表に従って行動するように指示する旨を記載した書面を掲示しながら、口頭で、本件卒業式日程表に従って行動することを申し渡したこと、原告らを含む教職員らは、江野校長の右指示に応ずることなく、本件予行練習等は行われなかったこと、福岡高校の一人の生徒の保護者から、右同日午後零時四〇分ころ、江野校長に対し、原告らを含む教職員らが本件印刷物を配布したことについて抗議の電話があり、本件印刷物を作成した教職員らの代表者にも抗議したいと述べたことから、右電話は、事務室から三年生副担任教職員である赤水教諭に転送され、その後、国井教諭が、右保護者と電話で対応したこと、原告らを含む教職員らが、江野校長による「日の丸」の掲揚に反対して、生徒らに対し、本件印刷物を配布した上、放課を指示して、本件予行練習等を行わなかったことが、日刊新聞に、「「日の丸」卒業式の予行ボイコット 全学級で生徒を解放」、「卒業式の「日の丸」に反発 教師ら練習中止」、「各高校、関係者に戸惑い 教師側と校長対立したまま」、「「日の丸」に揺れる教育 県立福岡高の卒業式予行ボイコット」、「「日の丸」掲揚に教師反発 卒業式の予行中止」、「卒業式の予行演習中止 教師らが日の丸に反対」、「「日の丸強行」校長発言に教師反発 卒業式の予行練習流れる」等の見出しにより報道されたことがそれぞれ認められる。
これらの事実によると、原告らを含む教職員らは、江野校長の出席のもとに開かれた平成二年三月五日朝会において、本件卒業式日程表に記載されたとおりに行うことを了承し、同月八日の朝会においても、第三及び第四時限には本件卒業式日程表に記載されたところに従った本件予行練習等を行うことが改めて確認されたのであるから、原告らは、右同日の第三及び第四時限に本件予行練習等を行い、生徒を指導することは、原告らに対して課された具体的な職務であったと認められ、また、江野校長は、本件予行練習等を中止し、生徒らの放課をした原告らに対し、右同日の日程に従って本件卒業式日程表に基づく本件予行練習等を行うことを指示したにもかかわらず、原告らは、これを行わず、生徒らに対し、「日の丸」の掲揚に反対するという原告らの信念、考え方等を記載した本件印刷物を配布した上、放課を指示し、生徒らを帰宅させ、本件予行練習等及びそれについての生徒指導を行わなかったのであるから、原告らは、いずれもそれぞれに課されていた職務を行わなかったというべきであり、原告らの本件行為は、地方公務員法上の職務専念義務に違反しているといわざるを得ない。
原告らは、本件卒業式に「日の丸」を掲揚するという江野校長の決定が、原告らの「日の丸」に対する信念や考え方等と相容れないものであり、江野校長の右決定の撤回を求めるための対策会議を開くこととして、本件予行練習等を中止し、「日の丸」の掲揚に反対するという原告らの信念や考え方等を記載した本件印刷物を配布した上、放課を指示して本件予行練習等を中止したのであるから、原告らの本件行為は専ら原告らの主義、信条に基づく表意であるといわざるを得ず、「日の丸」の掲揚に対しては、種々の意見や立場があったことは否定することができない状況にあったことにかんがみると、原告らは、地方公務員である福岡高校の教職員の職にある者として、単に一方の立場に依拠することなく、教職員としての公正かつ客観的な立場を保持して生徒を指導することが、その職務の信用の基礎をなすというべきである。しかるに、原告らは、前示のとおり、一方的に本件卒業式日程表に従った本件予行練習等を中止し、本件印刷物を配布した上、生徒らを放課したものであり、本件行為について、福岡高校の生徒の保護者から、抗議の電話があったほか、日刊新聞に報道され、地元を中心として多数の住民の知るところとなったこと等に照らすと、原告らが本件卒業式において「日の丸」を掲揚することを反対する立場から、原告らに課されていた職務を行わなかったことが社会一般に知られるところとなったことは、教育公務員に対する信用の失墜を招く行為であったというべきである。
とするならば、本件行為は、地方公務員法上の信用失墜行為(同法三三条)及び職務専念義務違反(同法三五条)に該当するというべきである。
2 この点、原告らは、本件行為は、江野校長が、平成二年三月八日朝会で、唐突に本件卒業式において「日の丸」を掲揚する旨を発言したため、本件卒業式の混乱を避けて、本件卒業式を滞りなく厳粛に行うという教育目的を達成するために必要な教育的行動として行ったものであり、印刷文書の配布、行事の中止等は、校長の決裁を要するものではなく、現場の教職員の判断に委ねられており、校長の決裁なく本件行為を行ったとしてもなんら地方公務員法に反するものではない旨主張する。
そこで検討するに、学校教育法五一条、二八条三項は、校長は、校務を司り、所属職員を監督すると定め、埼玉県立高等学校管理規則一六条二項は、職員会議は、校長が召集し、校務に関し、校長の諮間その他の重要事項について審議し、又は、教職員相互の伝達、連絡、調整等を行うものとすると定めていることからすると、教職員は、職員会議等を通じて、自主的、主体的な立場から、校務の運営に必要な意見を述べることができるが、校務の運営についての最終的な決定をする権限を有するものでないことは、明らかである。本件においては、福岡高校の校長である江野校長が同席するもとで、平成二年三月五日及び同月八日の朝会において、右同日の第三及び第四時限には、本件卒業式日程表に従った本件予行練習等を行うことが承認されており、また、右三月八日の朝会においても、同日の日程についての確認が行われ、江野校長は、右朝会において、本件卒業式では、「日の丸」を掲揚することを指示したのであるから、原告らが本件卒業式において「日の丸」を掲揚することに反対する立場であったとしても、生徒らに対し、本件印刷物を配布した上、放課を指示し、本件卒業式の予行練習の実施及びそれに対する生徒の指導を行わなかったことは、教職員の判断として是認されるべきことではなく、「日の丸」の掲揚に反対することの是非にかかわらず、なんら正当化されるものではないし、本件卒業式を厳粛に行うという教育目的を達成するために必要な教育活動であると認めることはできない。また、本件卒業式における「日の丸」の掲揚に反対する原告らが、江野校長の右指示の撤回を求めるための話し合いをする必要があるとするが、前記の経過に照らすと、原告らが、その主張にかかる話し合いをするために、生徒らに本件印刷物を配布して、放課を指示することが必要であり、やむを得ないとする事情を認めることもできない。
以上によれば、原告らの右主張は、理由がない。
3 また、原告らは、本件行為後も、卒業証書の確認、手配、卒業式の個別指導、部活動、掃除、試験問題作成などの職務についていたのであるから、職務専念義務に反する事実はなかったと主張する。
しかしながら、本件処分においては、原告らが本件卒業式において「日の丸」の掲揚について反対の立場から、本件印刷物を生徒らに配布した上、本件予行練習等を中止し、生徒らを放課したことが、地方公務員法三三条及び三五条に定める事由に該当するのであって、原告らが主張する右事実は、処分を行う際の事情として斟酌し得るとしても、これが直ちに同法三三条及び三五条の該当性を否定するものでないことは明らかであり、原告らの右主張は、理由がない。
4 原告らは、原告らの本件行為は、職員会議における審議決定を経ず、法的拘束力を有しない高等学校学習指導要領に基づく江野校長による「日の丸」強制という憲法一九条、二六条、国際人権法に反する行為に対する抵抗権の行使として適法なものであり、右適法な原告らの本件行為に対する本件処分は、違法であると主張する。
本件処分当時、「日の丸」を国民統合の象徴としての国旗として定めた法規は存在しなかったが、「日の丸」は、諸外国においても、日本を統合し、象徴する旗として、諸外国の国旗と同一に取り扱われており、日本の国旗として承認されていたというべきであるし、国内においても「日の丸」以外に国旗として取り扱われているものがないことに照らすと、「日の丸」が日本の国旗であることは、公知の事実であったというべきである。そして、高等学校学習指導要領(ただし、平成元年文部省告示第二六号による改正前のもの。)には、「国民の祝日などにおいて儀式などを行う場合には、生徒に対してこれらの祝日などの意義を理解させるとともに、国旗を掲揚し、国歌を齊唱させることが望ましいこと。」と定められており、右学習指導要領は大綱的基準で、法規としての性格を有するというべきであり、校務の運営についての最終的な決定をする権限を有する立場にある江野校長が、その権限と職責に基づいて、本件卒業式において「日の丸」を国旗として掲揚することを指示し、平成二年三月八日の日程については、本件卒業式日程表に従った本件予行練習等を行うことを指示したのであるから、これが直ちに、原告らの主張するように、原告ら教職員、生徒及びその親の内心の自由、原告ら教職員の教育の自由等に強制を加えるものであると認められないし、原告らが、本件卒業式において「日の丸」を掲揚することに反対する立場から本件予行練習等を中止することが、原告ら教職員、生徒及びその親の内心の自由、原告ら教職員の教育の自由等を保持するために必要かつ相当な行為であると認めることもできない。
5 以上によれば、江野校長による本件卒業式における「日の丸」の掲揚の指示は、憲法一九条、二六条、国際人権法に反するとは認められず、原告らの右主張は、理由がない。
二 原告らは、本件処分は、戒告処分という重大な不利益を科す行政処分であり、憲法三一条によって、事前の聴聞手続及び弁明の機会を経る必要があるにもかかわらず、右手続においては実践されておらず、本件処分は憲法三一条に反する違憲、違法な手続である旨主張する。
本件においては、前記認定のとおり、教育局の職員は、平成二年三月二九日、同年四月五日及び同月一二日、原告らを含む本件行為を行った教職員らに対し、一人ずつ個別に、本件印刷物の配布の有無、本件印刷物を配布した場所、放課の指示の有無、本件印刷物の配布及び放課の指示について事前に相談があったかどうか等について、それぞれ事実を調査したことが認められる。右のとおり、本件処分において必要な調査が行われており、本件処分が憲法三一条に反する違憲、違法な手続であるという原告らの主張は、理由がない。
第三 本件裁決の違法性について
原告らは、教育局指導部次長として、「日の丸」掲揚の強制において重要な役割を果たすとともに、本件処分を直接指揮した渡邉次長が、本件裁決において人事委員として関与しているので、本件裁決は違法である旨主張する。
地方公務員法は、人事委員会は、三人の委員をもって組織され(同法九条一項)、委員全員が出席しなければ会議を開くことができない(同法一一条一項)旨定め、人事委員会の意思決定方法の中立性及び公正性が確保されているほか、人事委員は、人格が高潔で、地方自治の本旨及び民主的で能率的な事務の処理に理解があり、かつ、人事行政に関し識見を有する者のうちから、議会の同意を得て、地方公共団体の長から選任される(同法九条二項)と定めて、人事委員の資格要件を厳格にして人事委員会の各委員の中立性を保っているところ、本件において、渡邉次長は、人事委員として適法に選任され、本件裁決は、本件審査請求について適正な手続に基づいて行われているのであるから、本件裁決の公平性、中立性は保たれており、また、渡邉次長が、前記認定のとおり、原告らの本件行為について、教育局の職員に事実調査をするように指示したとしても、かかる事実をもって、渡邉次長が、人事委員として、本件裁決を行うにつき、中立公正を期待することができない事情が存したと認めることはできず、他に公平性、中立性を疑わしめるべき事情は認められない。
したがって、この点に関する原告らの右主張も理由がない。
第四 損害賠償請求について
以上のとおり、被告教育委員会の行った本件処分は、実体的にも手続的にも違法であるとはいえず、他に、本件処分が国家賠償法上の「違法な公権力の行使」に該当すると認めるに足りる証拠もないから、原告らの被告県に対する国家賠償法上の損害賠償請求の訴えは、その余について判断するまでもなく、理由がない。
第五 結論
よって、原告らの請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官 白井幸夫 蛭川明彦)